今朝のあさイチで伊勢をやってて、その中で食器のことを「け」と言いますとありました。
ちょっと文字が見えてなかったのでよく分からないのですが、おそらくは「笥」ですね、古い言い方でそういう呼び方します。
「笥」と聞くと思い出す人がいます。
歴史上の人物なんですが、有馬皇子、悲劇のプリンスとして有名な人なので、ご存知の方、ファンの方も多いのでは?
どんな人かと言いますと、孝徳天皇の息子で、父亡き後、中大兄皇子(後の天智天皇)に殺されないように狂った振りをしていたんですが、その後クーデターを起こしたとして捕まり、死罪になりました。
その人が残したと言われている歌が2首あるんですが、そのうちの一つに「笥」が使われてます。
「家にあれば 笥に盛る飯を 草枕 旅にしあれば 椎の葉に盛る」
意味は、
「家にいたら食器に持って食べる食事だが、旅先(処刑のための藤白坂への道中)なので椎の葉に乗せて出された」
だと言われていました。
いかにもかわいそうな歌、ですよね。
悲劇のプリンスって言われているのはこの歌のせいもあるのかも。
なんですが、どなただか忘れましたが、この説に「待った!」と唱えた人がいました。
なぜかと言いますと、もう1首の歌と比べてあまりにも卑屈だと言うんですね。
そのもう1首が次の歌です。
「磐代の 浜松が枝を 引き結び ま幸くあらば また還り見む」
意味はそのまま、
「旅先の磐代の浜で松の枝を結んで、もう一度ここに来られるようにと願をかけよう」
みたいな感じ。
この歌も「生きていられたらまた来たい」って意味でかわいそうにつながることもあるんですが、どっちかと言うと明るい未来、旅先で「いつかもう一度来たいなあ」みたいな若者らしい歌なんじゃないか、だとしたら「みじめな葉っぱにご飯を盛られた」ってのと対は変なんじゃないか?ってことらしいのです。
どうやら伊勢のこのあたりでは、神様に差し上げるご飯を椎の葉に乗せる習慣があるらしく、旅先でそれを見て、
「うちでは食器に持って差し上げるのにこのあたりでは椎の葉に乗せるんだ、へ~」
と言う、旅先の若者らしい感想なんじゃないか?という解釈なんです。
そう言われるとさっきの歌の「また来たいなあ」と「珍しいなあ、へ~」ってのが対だと言われても納得ですよね。
どっちかが正解なのか、もしくは歌そのものが有馬皇子の歌ではなくて後年に「この人っぽい」と有馬皇子の歌だとされたのか、または有馬皇子っぽく誰かが詠んだ歌なのか。
どれだとしても時代によって、研究の結果によって、色々解釈って変わってくるんですよねえ。
似たようなのに、
「香具山(かぐやま)は 畝傍(うねび)ををしと 耳梨(みみなし)と 相(あひ)あらそひき 神世(かみよ)より かくにあるらし 古昔(いにしへ)も 然(しか)にあれこそ うつせみも 嬬(つま)を あらそふらしき」
という歌もあります。
この歌、中大兄皇子の歌で、昔言われていた意味は、
「香具山は畝傍『ををしい』と耳成山と取り合ったそうだ、神様の世からそういうことが続いているのだから今の人間も『つま』を取り合っているんだなあ」
みたいな感じです。
ところが、この「ををし」と「つま」でちょっと意味が変わってくるんですよね。
「ををし」を今でも使うそのままに「雄々しい」ととるか、「愛しい(これをおおしいと読みます)」ととるかで逆の意味にとれるんです。
「相手を雄々しいから好きだわって言うから、本当は取り合いされてる畝傍が男性で、香具山と耳成が女性だ」
「だって取り合ってるのは妻なんだろう?」って思うと思いますが、実はこれの「つま」なんですが、古代では「夫」が「つま」なんですよね。
奥さんの「妻」の場合は「妹」と書いて「いも」と読みます。
言われてみれば、なるほどなあ、です。
私もその解釈を聞いてから、こっちの方が自然だなと思い、「畝傍=夫」説を支持するようになりました。
確かに当時は一夫多妻で、たくさんの女性に夫一人が普通でしたしね。
取り合うのも日常のことだったんでしょう。
ただ、これにも反対する人がいまして、
「大和三山が並んでる姿を見てみろ、真ん中の畝傍が一番小さい、だから畝傍はやっぱり女性だ」
と言います。
う~ん、写真とか見ると実際の標高は別にして、三つ並んでるのを見ると真ん中が小さい。
だから「畝傍=妻」説も否定しきれないんですよねえ。
と、ごくごく最近に、また面白い説を見ました。
「畝傍が小さいから男性じゃないっておかしいだろう、今の時代を見てみなさい、男の子の方がか弱いよ、当時も女性が強かったんじゃないの?」
なるほどー(笑)
確かに、女性はか弱くて守られるべきって時代とはちょっと違うのかも知れない。
「私がこのだめな男を守ってやってるんだから!」
「何よ、この男を食べさせてやるのは私なんだから!」
その間でひ弱なあんちゃんがおろおろと、「けんかをやめてーボクのために争わないでー」って(笑)
あるかもなあ、あるかも知れない(笑)
「愛しい」「夫」でいいのかも知れない(笑)
別に男の人が「雄々しく」ある必要ないもんね(笑)
いやあ、やっぱり万葉集って面白いなあ。